各国の電気事業(2019年版)
ロシア
2019年2月時点
1. エネルギー政策動向
- 世界有数の化石燃料資源国:重要な外貨収入源
- ロシアは、天然ガスの埋蔵量で世界1位、石炭で2位、また石油では6位を占める世界有数の化石燃料資源国である。これらの化石燃料はロシアにとり貴重な輸出品であり、外貨収入源となっている。総輸出額に占める燃料エネルギー(電力を含む)の比率は約6割(2016年)である。
- 2009年11月に制定された「2030年までのロシアのエネルギー戦略」(「2030年エネルギー戦略」)では、このような資源輸出型からイノベーション型への移行という方針を打ち出し、エネルギー部門に対して経済のイノベーション型発展を支え得る、技術革新に基づいた効率的な事業運営を求めている。エネルギー資源およびエネルギー部門の潜在力を最も効率的に利用することにより、経済の持続可能な発展や国民生活の質的向上、対外経済関係における地位向上などの課題実現を後押しすることが政策の目標とされている。
- エネルギー輸出では、原油・天然ガスなどの原料に代え、付加価値の高いエネルギー製品・関連技術の比重を高める構造変化を求めており、LNGや原子力技術は重要な輸出商品と位置付けられている。輸出先についても、従来の欧州中心から、需要の大幅増加が見込まれるアジア太平洋地域に移行する方針を定めている。2019年2月現在、ロシア政府は新たに「2035年までのロシアのエネルギー戦略」を策定中であり、2017年に発表されているその草案(政府による採択は遅れている)によれば、上述のような政策的方向性は引き続き維持されるものとみられる。
- 燃料生産は、金融危機等による一時的な落ち込みを除いて、2000年代以降、おおむね増産傾向が続いている。ロシア統計局の資料によると、2016年の原油(ガスコンデンセートを含む)生産量は5億4,800万トン(前年比2.4%増)、石炭生産量は3億8,600万トン(前年比3.8%増)といずれも前年比で増産となった。ただし、天然ガス生産量は6,410億m3で前年比1.1%の減産となっている。
- エネルギー輸出市場の東方シフト
- 欧州はこれまで、ロシアにとって最大の天然ガス輸出先であり、それ自体は今日においても変わることはない。ただし、近年では欧州がロシア産天然ガスへの依存軽減を目指す中、エネルギーを巡るロシアと欧州との関係に変化も生じている。とりわけ、2014年に発生したウクライナ問題は、欧州とロシアの関係を冷え込ませる結果となり、こうした中、ロシア側も輸出先としての欧州一極への過度な依存を軽減するべく、自国資源の販売先の多様化を図りつつある。このような動きは、新たな輸出市場をアジアに求める、いわゆるロシアの「東方シフト」と呼ばれる動きにつながっている。象徴的な事例として、2014年、ロシア国有ガスプロム社と中国石油天然ガス集団(CNPC)との間で、向こう30年間にわたって380億m3、4,000億ドルを上回るガス供給契約が両国首脳の立会いの下で合意されたことなどが挙げられる。
- 発電はガス火力中心
- 発電では、天然ガスへの依存が大きな特徴となっている。2016年の発電電力量1兆910億kWh(前年比2.2%増)のうち、火力が7,042億kWhで64.5%を占めるが、その火力の中では天然ガスの比率が高く、総発電電力量の49.7%(国際エネルギー機関IEAによる2016年実績)となっている。
- 一方、電力の大消費地で燃料資源の乏しいロシア欧州(欧ロ)地域への電力供給、さらにはガス発電偏重の軽減のため、原子力開発も進められてきており、2017年末現在31基2,794万kWと世界第5位の原子力発電国となっている。2016年の原子力発電電力量は1,966億kWhで総発電電力量の18.0%を占める。
- また、水力開発は東部地域(主にシベリア地域)を中心に進められてきた大容量水力の建設が一段落しており、近年では欧ロ地域での揚水建設にも力が入れられている。2016年の水力発電電力量は1,866億kWhで、全体の17.1%を占める。
2. 地球温暖化防止政策動向
- 京都議定書のGHG 削減目標を大幅に下回る排出実績
- ロシアは1997年に京都議定書に調印し、2004年に手続きを完了した(これを受け議定書は2005年に発効)。締約国の中で市場経済移行国に属するロシアは、温室効果ガス(GHG)の排出量を2008~2012年の第1約束期間に1990年水準に保つことが義務付けられた。排出量は近年増加傾向にあるものの、1990年代を通じ経済活動の停滞もあり、2012年は1990年比で23.9%減となり、京都議定書の目標を大幅に下回る排出実績となっている。
- 約束草案:2030年まで20~25%削減
- ロシアは2020年以降の温暖化対策の国別目標案(約束草案)を、2015年4月1日に国連気候変動枠組条約事務局へ提出した。その中で、自国のGHG削減目標として、2030年までに1990年比20~25%削減することとしている。また、その際、森林による吸収能力を最大限、算定するとした。ただし、2016年実績でロシアのGHG排出量は1990年比26%減(国連データ)となっており、現状からすると排出量の増加にも含みを持たせた目標となっている。
3. 再生可能エネルギー導入政策・動向
- 普及遅れる再エネ電源
- ロシアの再生可能エネルギー(再エネ)電源(2.5万kW以上の水力を除く)の規模は小さく、その数値は国内の公式統計でも詳細に扱われていない。国際エネルギー機関IEAのデータでは、2016年実績として地熱による発電量が4.5億kWh、太陽光・風力が6.1億kWh、バイオマス・廃棄物が24.6億kWhとされているが、これらの合計は国内総発電電力量の1%未満に過ぎない。
- これまで、主要な再エネ電源の運転・開発は水力発電事業者のルスギドロ社が担当してきた。
- このうち、カムチャツカ地方では3カ所の地熱発電所(パウジェツカ、ベルフネ・ムトノフスク、ムトノフスク:総設備容量は約7万kW)が稼働中である。風力では、ウスチ・カムチャツク(1,175kW)など複数の地点で運転中であるが、いずれも小規模である。太陽エネルギーについては近年、サハ共和国で1,000kW級の設備が運開しているが、多くは極めて小規模な設備である。
- 再エネ電源開発目標を設定
- 国内に膨大な資源を抱え、安価な化石燃料にアクセスできる環境にあったロシアでは、水力以外の再エネ開発に対する積極的な取り組みが遅れていた。ただし、化石燃料への過度な依存や、再エネ技術開発の遅れに対する危機感などから、政府もようやく、再エネ開発を促すための法整備に着手するようになった。
- ロシアでは2007年に電気事業法が一部改正され、再エネの定義や再エネ電源開発に対する政府支援制度が初めて織り込まれた。これを受けて2008年には再エネ電源の認定の手続きを定めた政府決定「再エネ電源に対する認定について」が採択され、2009年に再エネ開発目標とそのための政府支援策が盛り込まれた政令「2020年までの再エネ利用に基づく電気事業のエネルギー効率向上分野の国家政策の基本方向」(「再エネ開発基本方向」)が発表された。
- この「再エネ開発基本方向」では、総発電電力量に占める再エネ電源(2.5万kW以上の水力を除く)の発電量シェアを2010年に1.5%、2015年に2.5%、2020年に4.5%とする目標が示された。実際の導入実績は目標を大幅に下回っている模様であるが、これまでのところ、これら目標を具体的に修正する動きは見られていない。
- 一方、再エネの導入を支援するための制度も、2013年より開始されている。これは、風力、太陽光、小水力のそれぞれの電源について導入量の枠を定めて入札を実施し、落札した開発プロジェクトに対し、向こう15年間にわたって投資額の12~14%の収入を保証する仕組みである。エネルギー省の資料では、同制度の下で、2014~2017年において27.3万kWの再エネが導入され、うち23.6万kWは太陽光設備であるとされている。
4. 原子力開発動向
- 世界第5位の原子力発電国
- ロシアは核保有国として第二次大戦後、早期から原子力発電開発に着手し、世界初の原子力発電所の運転を手掛けた。原子力発電所は、エネルギー戦略的観点から主に欧ロ地域に建設された。化石燃料生産の中心地がウラル以東のシベリア地域などの開発条件の厳しい地域へ移動するに従い、電力の大消費地である欧ロ地域に化石燃料を輸送する代わりに原子力発電所を建設するほうが経済的とされたためである。その結果、2017末年現在、9カ所の原子力発電所で原子炉31基が運転中で、設備容量は2,794万kWと世界第5位の原子力発電国となっている(出力1.2万kW以下の小型原子炉を除く)。
- ロシアで開発された発電用原子炉は、主に加圧水型軽水炉(PWR、ロシアではVVERと呼ばれる)と軽水冷却黒鉛減速炉(LWGR、ロシアではRBMKと呼ばれる)の2炉型であるが、高速増殖炉(FBR、ロシアではBNと呼ばれる)の開発も早期から手がけ、現在も開発が続けられている。加圧水型炉18基(VVER-440が5基、VVER-1000 が13基、計1,581.6万kW)、軽水冷却黒鉛減速炉・大型炉(RBMK-1000)11基(1,100万kW)のほか、高速増殖炉 2基(BN-600、60万kWおよびBN-800、86.4万kW)が運転されている。また、至近では2018年以降、レニングラード原子力発電所5号機(VVER、120万kW)、ロストフ原子力発電所4号機(VVER、100万kW)が新たに運転を開始している。
- 原子力部門は国有機関ロスアトムが統括
- 原子力部門は、2007年に連邦原子力庁(Rosatom)をもとに国家原子力コーポレーション・ロスアトム(State Atomic Energy Corporation Rosatom)が設立され、ロスアトムを頂点とする事業体制が確立された。ロスアトムは軍事核部門も含めた原子力部門全般を統括しており、民生原子力部門については、2007年7月に設立された国有持株会社「アトムエネルゴプロム社」(Atomenergoprom:AEP)が統括している。AEPの傘下に原子力発電会社ロスエネルゴアトム(Rosenergoatom 、1992年設立、2008年9月株式会社化)や原子燃料会社TVELなどが存在する。こうした事業再編は輸出対応の組織整備の側面もある。
- 国内外で原子力開発推進
- ロシアでは、2011年3月の福島第一原子力発電所事故を受けて実施された原子力発電所の安全評価・検証の結果、過酷事象に対するロシアの原子力発電所の設計上の防護・耐及性が実証されたと明らかにしている。ロスエネルゴアトム社は、こうした結果を踏まえ、長中期の対応を含む追加安全措置を引き続き講じるとともに、以降、国内外で新たな原子炉の建設を継続している。
- 政府は2017年に2035年までの電力施設計画を承認した。計画では二つのシナリオが用意されており、2035年までの国内の原子力発電設備の新規運開は、基本シナリオにおいて2,140万kW、最少シナリオにおいて1,770万kWと想定されている。基本シナリオでは、120万kW級のVVER17基が2035年までに建設・運開するとされているほか、極東地方での電力供給を見越した海上浮体式原子力発電所の建設も進められている。
- 原子力設備の輸出にも積極的に取り組んでいる。もともとロシアはソ連時代から、当時、同じ共産圏であった中東欧諸国において自国の原子炉建設実績を有していたが、1990年代以降はイランや中国などアジア諸国にも輸出先を拡大、近年、その動きはさらに加速している。現在、国外での発電所建設プロジェクトには、クダンクラム(インド)、アックユ(トルコ)、オストロヴェツ(ベラルーシ)、パクシュ(ハンガリー)など数多くの計画がある。
5. 電源開発状況
- 主要電源はガス火力
- 前述のように、ロシアの電源においてガス火力が中心的な役割を担ってきたが、一方でガスへの過度の依存を軽減するために原子力、水力の開発も進められてきた。ロシア統計局の資料によると、国内の総発電設備は2016年末現在、2億6,650万kWで、火力1億8,760万kW(70.4%)、原子力2,720万kW(10.2%)、水力5,100万kW(19.1%)という内訳になっている。
- 前述の2035年施設計画では、2015~2035年において、総発電設備容量は基本シナリオで8.6%、最少シナリオで3.5%の増大が見込まれている。また、基本シナリオにおいて、この期間の新規運開設備の容量は約8,600万kW、廃止される設備の容量は約6,600万kWで、正味増分が約2,000万kWとなっている。その際、2035年までの電源設備構成に大きな変動は想定されていない。例えば、基本シナリオで原子力が2015年の11.2%から2035年の13.4%へわずかに増大し、火力が同じく67.6%から65.0%へやや低下する程度である。
- 同計画によれば、ロシアにおける火力発電設備の燃料消費の内訳は、2015年実績で、ガス70.9%、石炭25.0%、石油0.6%、その他3.6%と示されている。こうした構成比は2035年においても大きく変わることはなく、引き続き、ガス火力が中心の電源構成が維持されるものと想定されている(基本シナリオにおける2035年の燃料消費構成は、ガス70.9%、石炭25.7%、石油0.4%、その他3.0%)。
6. 電気事業体制
- 部門別に会社化:発電・供給部門は民営化も実施
- ロシアの電気事業は従来、1992年に設立された国有電力持ち株会社のロシア単一電力系統社(RAO UES)を中心とした体制であった。しかし、2001年の政府決定に基づき事業改革が開始され、2008年7月、RAO UESの解散で一段落した。
- その間に部門別分離(アンバンドリング)が行われ、送配電・系統運用、水力発電、火力発電および小売供給の各部門に事業会社が設立された。また、RAO UES傘下に入らなかったイルクーツクエネルゴ社等の電気事業者についても、政府方針に沿った再編が行われた。
- 送電、配電はロシア・グリッド1社に統合
- 送配電・系統運用部門では、系統運用会社(SO EES、全国の給電指令所を所有)、連邦送電会社(FSK EES、基幹送電網を所有・管理)、MRSKホールディング(配電持ち株会社)が置かれた。このうち、SO EESについては株式の100%を政府が保有している。一方、配電部門は、設備の老朽化に伴う設備投資需要が高く、業務の効率化が求められていたため、2012年5月に送電部門と統合する方針が決定された。最終的に、MRSKホールディング社はロスセーチー社(ロシア・グリッド)と改称され、同社がFSK EESを傘下に置くこととなった。ロスセーチー社(88.04%政府保有)は2013年4月に再編手続きを完了し、2019年初現在、FSK EES株の約8割を保有している。
- 火力、小売供給部門は民営化
- 火力発電部門と小売供給部門は民営化された。火力発電部門では大規模火力で構成される卸発電会社(OGK)6社、中小規模火力で構成される広域発電会社(TGK)14社に分割・民営化された。民営化には欧州大手電力会社も参入し、独E.ONがOGK-3(その後E.ONロシア、続いてユニプロに改称)、伊EnelがOGK-5(同Enelロシア)、さらにフィンランドFORTUMがTGK-10(同FORTUM)をそれぞれ取得した。その他のOGK・TGKは国有ガス会社・ガスプロム社などの国内大企業や国有電力会社が取得したため、グループ化が進行し、発電会社の再編が進められている。
- 水力発電会社ルスギドロ社については政府が過半数株(60.6%)を保有している。また、電力輸出入会社インテルRAO UES(インテル社)については、複数の政府系企業が主要株主となっている。同社はもともと電力輸出入に携わる事業者として発足したが、現在は各地の発電会社や小売供給会社を傘下に置いた総合的な電気事業者として運営されている。
- 例外的に極東地域では垂直統合型が維持されており、株式会社・東部電力系統社(RAO ES Vostoka)が、事実上、政府管理下(ルスギドロ社の管理下)で電気事業を統括している。
- 小売供給部門は、RAO UESの子会社であった地方電力から分離・設立された小売供給会社を中心に、いわゆるラストリゾートである供給保証事業者(GP)の資格が与えられ、その他の販売会社とは区別されている。GPは供給区域を持ち、区域内の需要家の供給申請に対しては受入義務がある。GPには地方電力由来の事業者のほか、鉄道や産業用に電力を供給していた会社なども指定されている。その他の販売会社は、改革以降に設立された企業が中心で、家庭用供給を除き自由に契約も価格設定もできる。2015年時点で、GPは全国に約400社とされている。
- 系統運用
- 系統運用はSO EESが担当している。全国系統のロシア単一電力系統(EES)は、7統合電力系統(OES:北西、中央、南部、中ボルガ、ウラル、シベリア、東部)から成り、それぞれの統合電力系統は複数の地方電力系統(RES、全国に69)から構成される。SO EESの中央給電指令所、統合給電指令所、地方給電所がそれぞれEES、OES、RESの運用を行っている。東部を除く6つのOESは同期連系されており、また、隣国のベラルーシ、エストニア、ラトビア、リトアニア、ジョージア、アゼルバイジャン、ウクライナ、モンゴルと、さらにカザフスタン経由で中央アジアのウズベキスタン、キルギスとも国際連系されている。
7. 電力自由化動向
- 電力自由化は限定的
- 電力改革の一環として進められた電力市場の自由化は2003年、規制価格で取り引きされていた当時の卸電力市場に自由価格で取引する自由取引セクターを設けるところから始まった。2006年9月の新市場モデル(NOREM)の導入とともに、卸電力市場は、規制相対契約、1日前市場および需給調整市場による取引構成に改められた。
- NOREMでは相対取引契約を中心に据え、1日前市場と需給調整市場で過不足分を調整する一体的な運用が行われ、その中で規制取引枠が徐々に引き下げられ、自由化が進められた。小売電力市場においても、2011年1月からは大口需要家向けの電力販売が自由化されている。
- ただし、卸電力市場、小売電力市場ともに、自由化が実施されているのは「価格ゾーン」と呼ばれるロシア欧州・ウラル地域およびシベリア地域に限られており、極東など「非価格ゾーン」と呼ばれる地域では、基本的に垂直統合型電力会社が規制価格で電力を販売している。
8. 電力供給体制図
※自由化地域の例
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