各国の電気事業(2019年版)
ドイツ
2019年2月時点
1. エネルギー政策動向
- 90年代以降、エネルギー消費はほぼ横這い
- ドイツは第二次大戦後の冷戦によって東西に分断されていたが、1990年に社会主義国家東ドイツの崩壊によって再統一された。統一後は旧東ドイツ地域の経済が落ち込み、非効率な火力発電設備の更新や廃止が行われた。そのため、ドイツのエネルギー消費量は、1990年代以降、漸減あるいは横這い状態が続いている。2018年の一次エネルギー消費量は前年比5%減少の12,900PJ(ペタジュール)であり、1970年代初め以降で最低の水準となった。減少の要因は燃料価格の上昇、エネルギー効率の向上に加えて、冬場の気温が平年より高かったこととされている。
- 2038年末までの石炭・褐炭火力全廃を決定
- 供給面では、ドイツはもともと褐炭と石炭を豊富に産出する国で、これらの資源は歴史的にドイツ工業の発展に大きく寄与してきた。1960年代以降、石炭は安い輸入石油に押されて主役の座を追われたが、政府は1973年の石油危機を契機に石炭への再転換策を打ち出し、石炭産業を保護してきた。1996年までは電力会社に国内炭の引き取り義務が課され、制度廃止以降も補助金の形で保護策が継続されてきた。しかし、安価な輸入炭に押されて国内炭の生産量は1990年代に大きく減少し、2018年末には国内最後の石炭鉱が閉鎖された。
- 2019年1月26日には政府の諮問委員会(通称「石炭委員会」)が、2038年の石炭・褐炭火力全廃を提言した。提言書には発電事業者への補償や電気料金の抑制策に加えて、産炭地の地域振興策や労働者への補償も盛り込まれた。
- 発電ミックスにおいても石炭・褐炭の後退は顕著となっている。2017年までは総発電電力量に占める石炭・褐炭の割合が再エネを上回っていたが、2018年は石炭・褐炭の割合が35.3%、再エネが35.2%(ともに速報値)とほぼ横並びになった。
- 脱原子力政策
- ドイツでは1975年に最初の原子力発電所が商業運転を開始したのを皮切りに、原子力開発が推進され、17基の原子力発電所(計2,049万kW)が建設された。
- その後、1986年のチェルノブイリ事故を契機に原子力発電への反対運動が活発化した。1998年に成立した社会民主党(SPD)と緑の党による連立政権は脱原子力政策を打ち出し、2002年には原子力法が改正され、原子力発電所は32年間の運転後順次、廃止されることになった。
- 2009年に成立した原子力推進派キリスト教民主社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)によるメルケル政権は、2010年10月、脱原子力政策を一部見直す原子力法の改正を実施し、32年とされていた原子力発電所の運転期間を平均12年延長した。
- しかし、2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故を受け、メルケル政権は脱原子力に転じた。2011年7月には、最も古い7基(故障で停止中を含めると8基)を廃止するとともに、運転中の9基も2022 年までに段階的に廃止することを決めた。
- 再エネの開発推進
- 原子力に代わって、政府が開発を推進してきたのが再生可能エネルギー(再エネ)である。特に電源として、政府は再エネとコージェネレーション(電気と熱を同時に生産)の開発に熱心で、政府は1991年の「電力買取法」、2000年の「再エネ開発促進法」(EEG)により、「固定価格買取制度」(FIT)を導入し、電力会社に対してこれらの電源からの発電電力を高い価格で買い取ることを義務付けた。
- このような奨励策が奏功し、ドイツでの再エネ、特に風力、太陽光発電の開発は目覚しく、2017年時点では累計で陸上風力5,047万kW、太陽光4,238万kWが導入されている。
2. 地球温暖化防止政策動向
- 2020年の温室効果ガス削減目標は未達の見通し
- ドイツは1990年の東西ドイツ統一後、旧東ドイツ地域での老朽工業設備や火力電源の廃止、再エネ大量導入により、温室効果ガス(GHG)排出の削減を進めてきた。2008年から2012年にかけてのGHG排出量削減の年平均値は24.2%となり、京都議定書の削減目標(同21%)を達成した。
- さらに政府は2020年までに1990年比で40%削減するという目標を設定した。これはEU大での達成目標20%を大幅に上回る野心的なものである。
- しかし、旧東ドイツ地域の発電設備や工業設備の整理が一息ついたため、削減ペースは鈍化傾向を見せている。GHG排出量の8割以上を占めるCO2の削減量は、1990年から1995年の間には1億1,110万トンであったが、1995~2000年の間には3,940万トン、2000~2005年の間には2,700万トン、2005~2010年の間が3,750万トンとなっており、次第に削減が難しくなってきている。2017年のGHG排出量は9億661万トンであり、1990年比の削減率は27.5%となった。現状では2020年時点でのGHG削減率は1990年比で32%程度にとどまると見られ、政府も2020年目標の達成を実質的には断念している。しかし、目標未達分を早期に削減し、2030年目標の達成を確実にするために、2018年3月に発足した新政権(第4次メルケル政権)は再エネ導入を加速させる方針を明らかにしている。
3. 再生可能エネルギー導入政策・動向
- 風力、太陽光を大量導入
- 政府は再エネ開発推進のため、前述の通り1991年に「電力買取法」、さらに2000年には「再エネ開発促進法」(EEG)を制定した。EEGにより「固定価格買取制度」(FIT)が導入され、電力会社に対して再エネ電源からの発電電力を高い価格で買い取ることが義務付けられた。
- その結果、特に陸上風力開発の進展は目覚しく、設備容量は1990~2016年の間に約800倍に増大し、2017年には5,047万kWの規模に達している。
- また、太陽光の導入も急速に進展してきた。住宅に太陽光発電パネルを設置するケースに加え、大規模なソーラー発電所(メガソーラー)の建設も進められており、2017年には4,238万kWに達している。
- 需要家負担急増で制度手直しに着手
- 再エネ大量導入は、消費者の費用負担を急増させている。2018年には一般家庭の再エネ電源導入費用の負担額は月額20ユーロ(約2,600円)を超え、電気料金支払額の約23%を占めている。FITが導入された2000年当初と比較すると再エネ電源導入費用の負担は約34倍になっており、ドイツ政府も取り組むべき重要課題のひとつとして再エネ補助による需要家負担の抑制を挙げている。
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ドイツ政府は従来の再エネ補助制度を見直し、2015年から大型の太陽光発電設備(100kW~1万kW)を皮切りに、競争入札制度を導入した。同制度においては、再エネ発電事業者が補助金の単価を算定するための基準値※基準値から前月の月間平均卸電力価格を引いた価格が補助額となる。発電事業者は卸電力市場で再エネ電力を売り、その売電収入に加えて補助金を受け取るを入札する。入札価格が低い事業者から落札され、募集容量に達したところで終了となる。従来の再エネ補助制度では、申請すれば誰でも補助を受けることができたが、競争入札では落札されなければ補助の対象とならない。このため、事業者間で競争圧力が働き、補助の水準が下がることが期待されている。実際、2015年4月に実施された太陽光の第1回入札では、平均落札価格が9.17ユーロ・セント/kWhであったが、2018年2月の入札(750kW超の太陽光設備が対象)では4.33ユーロ・セント/kWhまで低下した。
- 入札制度の対象は、2017年には750kW超のすべての再エネ電源に拡大されている(バイオマスについては150kW超~)。
4. 原子力開発動向
- 福島事故で脱原子力に回帰
- ドイツでは石油危機を契機に原子力開発が進められてきた。しかし、1986年のチェルノブイリ事故後、反対運動が活発化し、前述の通りSPDは原子力反対に転じた。
- 1998年にはシュレーダー首相率いるSPDと緑の党による連立政権が成立し、脱原子力政策を打ち出した。同政権は2000年に原子力発電所を段階的に廃止することで電力会社と合意したのに続き、2002年には原子力法を改正し、32年間運転するものとして割り当てられた発電量が上限に達した発電所から順次、廃止されることになった。
- 2005年には、これまで野党であったキリスト教民主社会同盟(CDU・CSU)とSPDとの大連立のメルケル政権が誕生したが、政権内の勢力が拮抗していたため、脱原子力政策に大きな変更は加えられなかった。
- 続く2009年10月には第二次メルケル政権が誕生し、CDU・CSUはSPDとの連立を解消して自民党(FDP)と新たな連立政権を樹立した。同政権はこのまま脱原子力政策を進めた場合、早ければ2012年にも電力供給力不足になるとの需給想定を踏まえて、脱原子力政策の見直しに踏み切った。2010年10月には、脱原子力見直し政策を反映した原子力法の改正など一連の法案が連邦下院で採択され、32年とされていた原子力発電所の運転期間は平均で12年延長されることになった。
- しかし、2011年3月に発生した福島第一原子力発電所の事故を受けて、メルケル政権は脱原子力に回帰した。政府は直ちに最も古い原子炉7基と故障で停止中の1基を3か月間停止するよう指示したのに続いて、同年7月には一時停止中の8基の再稼働を禁止するとともに、運転中の9基も2022 年までに段階的に廃止することを決めた。
- 一時停止指示については、これらの原子力発電所を所有・運転する電力会社が、法的根拠の妥当性について政府を提訴し、2014年には行政裁判所が指示の違法性を認める判決を下した。また、再稼働の禁止および2022年までの脱原子力についても、電力会社は財産権の侵害に当たるとして、その補償を求めて連邦憲法裁判所に提訴していた。電力会社は、2010年に認められた運転期間の延長が福島事故後取り消されたのも違憲として、平均12年の延長分も含めた総額190億ユーロを補償すべきと主張した。しかし、連邦憲法裁判所は運転期間延長の取り消しについては合憲とし、2002年に定められた残存発電電力量を確保できなくなった発電所のみ、補償の対象とした。2002年に定められた残存発電電力量から割出される廃止時期と、福島事故後定められた廃止時期には大きな違いがなかったため、補償は電力会社の要求を大きく下回る額となった。
5. 電源開発状況
- 脱原子力、大量の再エネ導入で火力電源確保が不可欠に
- ドイツは従来、豊富な石炭、褐炭を利用した火力電源の開発を行ってきた。また、石油危機以降は原子力発電の開発も進めてきた。しかし、2002年以降脱原子力政策および再エネ電源の開発が進められている。
- 特に2011年3月以降の脱原子力回帰後は原子炉廃止分をカバーするために、火力発電所の新規建設、再エネ電源の開発を進めてきた。しかし、これらの計画はすでに一部見直しを迫られている。原子力発電の代替として期待されていた火力電源の建設の進捗状況は思わしくなく、一部はその完成が遅れている。
- 加えて、既存の火力発電所も再エネの大量導入により運転時間が減少し、採算がとれず廃止に追い込まれるケースも見られるようになっており、冬季の需要ピーク時に十分な供給力を確保することが難しくなっている。そのため、現在休止中の火力発電所が必要に応じて稼働できるよう、必要と指定された発電所に対して、運転費用に加えて維持管理費用や再稼働のための修繕費用も補助金として支出することを定めた省令が2013年6月に制定された。
- 上記の制度はドイツ国内の系統が整備されるまでの時限的措置とされたが、送電線建設が進んでいないため2019年現在も継続している。ドイツ政府はこの他にも、緊急時のみに稼働するリザーブ電源を競争入札により調達する制度等を整備し、必要な供給力の確保に努めている。
6. 電気事業体制
- 電力自由化で電気事業再編:発電と送電は所有分離に
- ドイツでは電力自由化を契機に電気事業体制が大きく変わった。かつてドイツには電気事業の中心的役割を担う8大電力会社が存在し、国内総発電電力量の約90%を独占的に供給してきた。また、この8社とは別に地方公営の小規模な配電会社等、約1,000社の電力会社が存在した。
- この8社による独占体制は、1998年の自由化によって電力会社間で激しい競争が行われるようになり崩れた。また、競争が激化するに従い、競争力を維持していくため、電力会社同士の合併や提携が盛んに行われた。8大電力会社は、E.ON、 RWE、EnBW、およびVattenfall (スウェーデン・ヴァッテンファル社の子会社)の4グループに収斂された。また、これらの企業は事業規模を拡大するために、海外の電力会社や国内の地方公営配電会社の買収を進めた。さらに、これらの企業はガス事業にも進出し、E.ON、RWEは欧州を代表する大手総合エネルギー会社となった。
- これらの大手企業は従来、発電、送電、配電、小売のすべての電気事業分野を手掛ける垂直統合型企業であったが、EU法や国内法では送電部門、配電部門を子会社化する法的分離を求められるに留まっている。しかし、欧州委員会からの圧力や債務削減などのため、現在はほとんどの企業が送電子会社を売却している。2010年にはE.ONが送電設備をオランダの送電会社TenneTへ、Vattenfallがベルギーの送電会社Eliaへそれぞれ売却した。RWEは2011年9月に送電子会社の7割の株式をコメルツ銀行グループのコメルツリアル社へ売却し、前述の4グループのうちEnBWのみが送電子会社を保有し続けている。
- E.ON、RWEの再編
- E.ONは2014年11月、将来的に事業を二分割する再編計画を発表した。同再編計画により、E.ONは2016年1月1日に新会社Uniperを設立、国内の原子力を除く従来型発電、国際エネルギー取引、資源採掘の3事業を移管した。事業再編後E.ON本体は、再エネ、配電、顧客サービス(小売を含む)などの事業に特化した。この背景には再エネ電源の大量導入、卸電力価格の低下により、同社の業績が悪化していることがあった。他方、RWEは再エネ・配電・小売事業を営む子会社Innogyを2016年に設立し、RWE本体では従来型発電事業を行ってきた。
- E.ON、RWE両社は事業再編をさらに進め、2018年3月にはドイツ政府がエネルギー転換を決めた2011年以降で最大の電力再編に繋がる資産交換で合意した。合意内容は、E.ONがRWEの子会社Innogy(再エネ・配電・小売事業を担当)の全株式(76.8%)を取得する一方、RWEはE.ON の全株式のうちの16.67%を取得、その後E.ONがInnogyの再エネ事業も含めE.ONのすべての再エネ事業をRWEに売却するというものである。これにより、E.ONは発電事業を行わず配電・小売に特化する一方、RWEは再エネを含めた発電事業に注力することになる。EUおよびドイツの競争当局は2019年2月にRWEによるE.ONの再エネ事業取得を許可したが、E.ONによるInnogyの配電事業取得については審査を継続している。
- 系統運用:4送電会社が各エリアを制御
- 所有形態に変化があった送電部門であるが、その運用については以前と変わりなく、全国に4社ある送電会社(Amprion社、50Hertz社、TenneT TSO社、TransnetBW社)が各管轄地域の送電設備を所有・運用している。配電会社は約900社あり、それぞれが管轄する地域で配電設備を所有・運用している。
7. 電力自由化動向
- 全面自由化で発電での大手シェアは低下
- ドイツでは、1998年に新しいエネルギー事業法が施行され、家庭用も含めたすべての需要家が電力の購入先を自由に選択できる全面自由化が実施された。
- 発電市場では、自由化当初は、再編されたE.ON、 RWE、EnBW、およびVattenfallの4大事業者が8割のシェアを占めていた。Vattenfallは2016年にドイツの褐炭事業をチェコのエネルギー事業者EPHおよび投資会社PPF Investmentsに売却し、褐炭火力発電所および露天掘り鉱山の運営は両社が50%ずつ出資するラウジッツ・エネルギー社(LEAG)が行っている。LEAGも含めた5大事業者は、ドイツの従来型発電市場において76%(2017年)と未だに高いシェアを占めている。
- また、卸電力取引活性化のため2000年には、フランクフルトに欧州エネルギー取引所(EEX)が、また、ライプチヒにライプチヒ電力取引所(LPX)が設立された。しかし、両取引所は十分な取引量を確保できず、2001年10月に合併を決め、2002年にEEXとしてライプチヒで運用を開始した。さらに、同取引所はEU域内の電力市場統合を視野に2008年にはフランスの電力取引所(EPEX)と運用を統合し、スポット取引はパリに、先物取引はライプチヒにそれぞれの業務を集約した。取引所の取引量は徐々に増加しており、2017年の一日前市場(電力が供給される一日前に取引を行う実物市場)での取引量は2,332億kWhに達している。
- 小売価格は上昇
- 一方、小売市場でも競争が活発化しており、4大事業者のシェアは2017年には大口で25%、家庭用などの小口で37%にまで低下している。また、家庭用需要家での供給事業者の変更率は29%程度である。
- 自由化によって、欧州諸国の中で最も高いと言われていた電気料金は一時、産業用で2~3割も低下した。しかし、近年は系統利用料金の上昇、環境税の引き上げ、再エネ買取コストの増大等の影響により、料金水準は上昇に転じている。そのため、EU統計局資料によると、ドイツの電気料金水準(税込)は依然としてEUで最も高い部類に入る。
8. 電力供給体制図
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