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各国の電気事業(主要国)2022年版

 
ドイツ
2022年8月時点
1.エネルギー供給
(2020年、石油換算100万トン)
 石 炭石 油ガ ス原子力水 力その他自給率
国内生産23.43.14.016.81.647.896.635%
国内供給44.694.374.616.81.646.5278.4
2.電力供給
(2020年、発電端)
発電電力量
(10億kWh)
構成比(%)
石 炭石 油ガ ス原子力水 力その他
571.12311812334
(2020年)
年負荷率熱効率送配電
損失率
CO2SO2
排出量
NOX
排出量
(%)(%)(%)原単位
(g/kWh)
総排出量
(百万トン)
(g/kWh)(g/kWh)
N/AN/A5.2310.8169.40.180.38
(注)SO2排出量、NOx排出量は2019年
電気料金水準
(日本=100、2020年)
停電時間
(分/年間、2016年)
産業用家庭用
10713513.26
3.電気事業体制
発電事業 RWE、E.ON、EnBW、バッテンファル(4大電力)、およびLEAGの5社で卸電力取引量の65.3%(2020年)を発電。
電力取引所 パリの欧州電力取引所(EPEX)でスポット取引、ライプチヒの欧州エネルギー取引所(EEX)で先物取引を実施。
送 電 4社の送電系統運用者が超高圧送電線を所有・運用。配電系統運用者は843社(2021年)。主に大手電力グループと自治体営。
小 売 小売電気事業者は1,400社以上。大手電力グループ、自治体営電力、マーケター等。

発 電 4大電力会社、IPP 卸 売 相対取引 取引所取引(EPEX、EEX) 送 電 Amprion、TransnetBW、 50Hertz Transmission、TenneT TSO 配 電 4大電力会社、地方公営 小 売 4大電力会社、地方公営 需 要 家
4.最近の動向と今後の課題

(1)自由化・事業体制

〇 自由化:1998年の新エネルギー事業法施行で全面自由化実施。

〇 4大電力の送電部門:2009年EU第三次電力自由化指令では、ドイツは所有分離に反対し法的分離(ITO)を維持。しかし、その後、欧州委員会の圧力、債務削減などから送電子会社を売却。E.ONがオランダの送電会社TenneT社へ、バッテンファル・ヨーロッパがベルギーの送電会社Elia社へそれぞれ子会社を売却 。RWEは送電子会社の7割の株式をコメルツ銀行グループのコメルツリアル社へ売却。現在、EnBWのみ送電子会社維持。

〇 小売市場:大規模事業者の2020年のシェアは大口で28.5%(E.ON、RWE、EWE、N-Ergie)、家庭用などの小口で42.8%(EnBW、バッテンファル、EWE)。

〇 事業再編:2018年、E.ONとRWEは相互の資産交換による事業再編計画で合意。RWEは発電(再エネ等)中心、E.ONは配電・小売を中心に自社の事業を特定。欧州委員会(競争当局)の承認を経て、2020年に資産交換完了。

(2)原子力政策・開発

〇 2002年に社民党と緑の党の連立政権は運転期間を32年に限定する改正「原子力法」を制定(脱原子力)したが、2010年12月、CDU・CSUと原子力推進派の自民党(FDP)の連立政権は、運転期間を平均12年延長する原子力法改正を実施(脱原子力の見直し)。

〇 脱原子力への回帰:福島第一事故を受けて、2011年7月、議会が脱原子力回帰の改正原子力法案を採択。同改正により、運転年数の長い7基および停止中1基は即時閉鎖、残りの9基は2022年までの段階的閉鎖となり、2022年7月現在、3基運転中。

〇 ロシアによるガス供給削減を受け、閉鎖予定3基の運転延長を検討中。

(3)気候変動対策

① 政策目標の動向

〇 EUの温室効果ガス(GHG)排出削減目標(2050年:カーボンニュートラル、2030年:1990年比55%削減)を加盟国として共有し、具体的な方策はEUの包括的政策に基づき今後具体化する予定(EUの政策については、別紙「EUのエネルギー気候変動政策を巡る最近の動き」参照)。

〇 中期目標(気候保護プログラム):2020年までに1990年比40%削減。2021年のGHG排出量は7億6,200万t(前年比約3,300万t増加)、1990年比削減率は38.7%となり目標未達。

〇 中長期目標(気候保護法): GHG排出量を1990年比で2030年までに65%、2040年までに88%削減。2045年にカーボンニュートラル達成をめざす。

〇 2021年1月よりEU-ETS対象外の運輸・建物部門でカーボンプライシングを導入。

〇 政府の諮問委員会である石炭委員会の提言を受け、2038年までに石炭火力発電を廃止するため2020年1月に脱石炭法案を閣議決定、同年7月に施行。発電所を早期閉鎖する事業者へのインセンティブとして補償入札を実施中。

〇 ショルツ政権発足時(2021年12月)の連立協定では石炭廃止時期を2030年に前倒し。

② 再エネ政策

〇 再エネ開発状況(2021年):陸上風力は5,609万1,000kW 、洋上風力は777万4,000kW、太陽光は5,872万8,000kW。

〇 再エネ促進策の経緯

- 1991年:「電力買取法」制定。固定価格買取制度(FIT)開始。

- 2000年:買取コストの負担過大化で、政府は8月にEEGを改正。新規の500kW超の再エネにはFITの適用を中止、卸市場での売却方式へ。

- 2014年:買取コストの負担過大化で、政府は8月にEEGを改正。新規の500kW超の再エネにはFITの適用を中止、卸市場での売却方式へ。

- 2017年:新規の750kW超の再エネ(バイオマスは150kW超)は、入札により補助を受ける事業者を選定する方式に移行。競争により補助水準が下がることを期待。

- 2021年:1月にEEG改正。再エネ導入目標達成に向けて競争入札募集容量を拡大。さらに2020年代にFITの買取期間が終了する再エネ発電設備の補助を継続。

〇 2022年4月に「イースターパッケージ」を発表。これに基づき以下の法律一式(新法、改正法含む)が同年7月に両院を通過、2023年1月に施行予定。

- EEG(2023):2030年までに総電力消費量に占める再エネの割合を80%に引き上げ(現行目標:65%)。年間再エネ発電電力量6,000億kWhをめざす(2021年実績:約2,336億kWh)。2030年までの目標導 入量について、太陽光は2億1,500万kW(現行目標:1億kW)、陸上風力は1億1,500万kW(現行目標:7,100万kW)に引き上げ。

- 洋上風力法:入札制度に新ルールを追加(現行の政府調査方式に加えて、事業実施への支払い意思が高い事業者を選定する事業者調査方式を導入)。目標導入量は2030年までに3,000万kW(現行目標:2,000万kW)へと引き上げ。

- 陸上風力法:国土面積の2%を陸上風力発電設備に充当するため、各州に面積貢献値を設定。

〇 再エネ大量導入における課題:風力などの再エネが北部に集中する一方、需要が集中する南部で原子力が閉鎖されたことで、北から南への重潮流が発生し、送電線整備の遅れから国外への予想外の潮流が発生。さらには南部諸州では冬季における供給力不足などの懸念あり。

③ 水素・アンモニア政策

〇 2020年6月に「国家水素戦略」を発表、2030年までに水電解装置500万kWの導入を目指す。連立協定では1,000万kWへ引き上げ。

〇 グリーン水素プロジェクト「H2Global」のもと、国外で製造されたグリーン水素の輸入を促進。

〇 「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」の一環として水素プロジェクトを推進、2021年5月末までに62件採択された。

〇 中長期的には、建設予定のLNGターミナルにおける水素利用を視野。

(4)電化

① 電化の進展状況

〇 一般家庭の電化率:暖房用1.7%、給湯用12.9%、調理用97.1%(2020年実績)

〇 2021年の乗用車の新車登録台数(262万2,132台)におけるEVシェアは13.6%。

〇 2021年12月1日時点における公共用の充電スタンド数は合計5万901カ所(前年比+1万1,600)。総設備容量は約150万kW(前年比+40万kW)。

② 電化促進に向けた政策

〇 政府による電気自動車(EV)・燃料電池車(FCEV)向けの助成を実施中。2024年までに段階的に廃止予定。プラグインハイブリッド車(PHV)への補助制度は2022年末に終了。

(5)その他

① ウクライナ侵攻の影響

〇 海底ガスパイプライン「ノルドストリーム1」を介したロシアからのガス供給量が減少(2022年7月27日時点で通常の20%)。冬季のガス需給ひっ迫が懸念されており、エネルギー安全保障の強化を迫られる。ロシアのウクライナ侵攻以前、ドイツのロシア産天然ガス依存度は約55%。

〇 ガス緊急計画における警戒レベル第1段階目(全3段階)の「早期警戒」を2022年3月30日に発令。同年6月23日に第2段階の「警報」に引き上げ。第3段階目の緊急事態が発令された際は、大口需要家(年間消費量1万kWh超)を対象にガスの配給を実施する。

〇 国内ガス貯蔵設備の最低貯蔵率(2022年9月:75%以上、10月:85%以上、11月:95%以上、2023年2月:40%以上)を設定。2022年8月12日時点では約75%となり、9月の目標を前倒しで達成。

〇 ロシアの制裁措置を受け、ロシア国営ガス企業ガスプロムのドイツ子会社ガスプロム・ゲルマニアを緊急で連邦系統規制庁(BNetzA)の管理下に。ドイツ復興金融公庫を通じて事業継続を支援する見通し。

〇 2022年6月にエネルギー安定供給法を改正、安定供給が脅かされる場合はインフラ企業を政府管理下に置くことが可能に。

〇 国内LNGターミナルの建設計画が進行中。短期的な調達先拡大のため、政府は浮体式LNG貯蔵再ガス化設備(FSRU)4隻を確保。ヴィルヘルムスハーフェン・ブルンスビュッテル・シュターデ・ルプミンに導入予定、2022/2023年冬季の運開をめざす。LNG輸入先は米国の他、カタールやイスラエル等が想定される。

〇 ガス消費量の節減を促すため、産業用需要家を対象にガスオークション制度を導入予定。

〇 2022年内の全原子炉閉鎖が予定されていたが、残り3基(イザール2号機:148万5,000kW、エムスラント:140万6,000kW、ネッカー2号機:140万kW)のストレステストを実施中(2022年8月17日現在)。結果を基に運転継続の可否を判断する予定。

〇 代替電源確保法が2022年7月に施行。ガス緊急計画の「警報」ないし「非常事態」が発令された場合、政府はガス火力の運転を制限することが可能に。2023年4月末まで再給電用の石炭・石油火力(系統リザーブ)や、脱石炭法により発電禁止となった石炭・褐炭火力の卸電力市場への復帰が認められる。

〇 2022年7月21日にガス消費量抑制のための追加対策(エネルギー安全保障パッケージ)を発表。ガス充填、発電用ガスの削減、エネルギー効率化の他、鉄道輸送における燃料供給能力の確保について法整備を進める予定。

② エネルギー価格高騰への対応

〇 電力卸売価格は352ユーロ/MW(2022年8月12日)に高騰、前年同日比で329%増。

〇 連邦予算と国内排出量取引の収益を再エネ賦課金の減額に充当し、2022年1月~6月末までの再エネ賦課金は前年の6.5ユーロ・セント/kWhから43%減の3.7ユーロ・セント/kWhに。2022年7月1日以降は再エネ賦課金を廃止。

〇 国民の救済策として、低所得世帯に1億3,000万ユーロ支給、国内労働者に通勤手当300ユーロ支給、児童手当100ユーロ支給、6~8月の燃料に係るエネルギー税を欧州最低税率に引き下げ、所得控除の増額等を実施。

〇 エネルギー集約型企業にはドイツ復興金融公庫による与信枠の提供等の補助プログラムを実施。

〇 ドイツ政府とフィンランドの電力大手フォータム(ユニパ―の主要株主、78%保有)は2022年7月22日、エネルギー大手ユニパ―の財政支援策に合意。ユニパ―は契約分のガス調達義務を負うため、ロシア産ガス供給量減少と価格高騰により2022年上半期に120億ユーロ超の損失を計上。支援策でドイツ政府はユニパ―の株式30%を購入(1株1.70ユーロ)、2億6,000万ユーロ出資、最大77億ユーロの転換社債を引き受け、ドイツ復興金融公庫の与信枠を20億ユーロから90億ユーロへ拡大する。

〇 ガス輸入事業者の負担軽減のため、2022年10月~2024年4月にガス賦課金(2.419ユーロ・セント/kWh)を導入。ガス輸入事業者は10月以降、既存契約(2022年5月以前の契約に限る)の不足分の代替費用90%分について金銭的補償を受けることが可能に。


※ 2022年8月時点の情報。
※ 数値の一部に四捨五入等を原因とする不突合がある。
※ 供給体制図はあくまで大まかな様子を表すもので、細部まで正確ではない場合がある。
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