ホーム > データ集 > 各国の電気事業(主要国/2022年版) > 英 国

各国の電気事業(主要国)2022年版

 
英 国
2022年8月時点
1.エネルギー供給
(2020年、石油換算100万トン)
 石 炭石 油ガ ス原子力水 力その他自給率
国内生産1.150.933.913.10.617.4117.076%
国内供給5.549.361.913.10.623.5153.9
2.電力供給
(2020年、発電端)
発電電力量
(10億kWh)
構成比(%)
石 炭石 油ガ ス原子力水 力その他
312.3203616244
(2020年)
年負荷率熱効率送配電
損失率
CO2SO2
排出量
NOX
排出量
(%)(%)(%)原単位
(g/kWh)
総排出量
(百万トン)
(g/kWh)(g/kWh)
69.4N/A8.4141.242.10.040.25
(注)SO2排出量、NOx排出量は2019年
電気料金水準
(日本=100、2020年)
停電時間
(分/年間、2016年)
産業用家庭用
979646.53
3.電気事業体制
送配電部門 発電や小売部門と分離
発 電 ライセンス供与は約340社。
卸電力市場 相対取引が約8割。卸市場シェアは発電大手のEDF、RWE、Uniper、Drax、SSEが約6割を占める。
送 電 所有はナショナル・グリッド・グループの送電子会社(NGET)、スコティッシュパワー社、スコティッシュ・ハイドロ・エレクトリック社の3社。この3系統の運用はナショナル・グリッド・グループの系統運用子会社(NGESO)がISOとして一括実施。政府は、エネルギーシステムの脱炭素化を独立的な観点から包括的かつ合理的に進めるため、ISOの公共法人化を行う方針。
国際連系 フランス、ベルギー、オランダ、アイルランド、ノルウェーと連系済み。新たにデンマーク、ノルウェー、アイルランドとの連系線が建設中。その他計画も多数。
洋上系統 洋上風力発電設備から陸上系統までの送電設備(海底ケーブル)は、洋上風力開発事業者が一括建設後、競争入札を経て別事業者が管理・運用。ライセンス供与は現在29社。
配 電 地域毎に14社が独占。工業団地等のオンサイト配電事業者である独立系配電事業者は15社。
小 売 ライセンス供与は約100社。家庭用で事業実績があるのは約23社(ガス専業を除く)。

発 電 発電事業者 卸 売 相対取引 取引所取引 送 電 NGESO(運用) 配 電 配電事業者 小 売 小売事業者 需 要 家
4.最近の動向と今後の課題

〇 温室効果ガス削減目標:2019年6月、2050年までに排出実質ゼロとすることを法制化。

〇 カーボン・バジェット:5年間ごとで総排出量に上限を設定。2025年までに1990年比51%減、2030年までに68%減、2035年までに78%減。

5.最近の動向と課題

(1)自由化・事業体制

〇 自由化:発電は1990年、小売は1999年に全面自由化。

〇 事業再編:1990年に発送電公社が分割・民営化。14の地方配電局もそのまま民営化され、英国の他、米国、ドイツ、中国、スペイン資本などの所有に系列化。2000年代前半までに発電・小売の統合が進み、Centrica系(英)、SSE系(英)、EDF系(仏)、E.ON系(独)、RWE系(独)、Iberdrola系(スペイン)の6大グループ(ビッグ6)に集約。近年はE.ONとRWEの大型資産交換やSSEの家庭用小売事業売却、発電事業の縮小やポートフォリオの見直しなど、再編が進む。

〇 電気料金:2003年以降、北海ガス(国産)の生産量低下を受け上昇。以降も国際的なガス価格の上昇や再エネ導入に伴う系統費用増加で上昇傾向が続く。大手小売からスイッチングしない需要家の保護を目的として、2019年から価格上限規制を導入。ビッグ6以外の新規小売事業者の小売市場シェアは、2012年末の1%から2020年末までに約40%に拡大。しかし、2021年後半からのエネルギー価格の高騰により、新規参入小売事業者約30社が経営破綻。

〇 スマートメーターの設置は小売事業者が担い、普及率は約50%(2021年末時点)に留まる。

(2)原子力政策・開発

〇 2008年に政府が新規建設積極策に転換したが、2022年8月現在、新規建設中2基(ヒンクリーポイントC、EPR、172万kW×2)と開発合意書(DCO)発給2基(サイズウェルC、EPR、167万kW×2)に留まる。現在運転中9基のうち、サイズウェルB(PWR、120万kW)を除くガス炉の8基が10年以内に閉鎖予定。

〇 ロシアのウクライナ侵攻を受け2022年4月の「英国エネルギー安全保障戦略(British Energy Security Strategy)」で、2050年までに原子力設備容量を最大2,400万kW、現在15%の発電量比率を25%へ引き上げる目標。1億2,000万 ポ ン ド( 約195億 円 )のFuture Nuclear Enabling Fundと各プロジェクト建設に政府が資金援助する特別目的会社Great British Nuclear Vehicleを設立。サイズウェルCでは、新資金調達方式であるRAB(Regulated Asset Base:規制資産ベース)モデルを適用し、中国(CGN)出資分の20%を政府が代替。

〇 小型モジュール炉(SMR)は、英国原子力規制局(ONR)が2022年4月、ロールス・ロイスSMR社UK SMR(PWR、47万kW)の包括的設計審査(GDA)開始を発表。

(3)気候変動政策

① 政策目標の動向

〇 温室効果ガス削減目標:2019年6月、2050年までに排出実質ゼロとすることを法制化。

〇 カーボン・バジェット:5年間ごとで総排出量に上限を設定。2025年までに1990年比51%減、2030年までに57%減、2035年までに78%減。

〇 EU離脱に伴い欧州排出量取引制度(EU-ETS)から離脱し、2021年1月からは英国独自の排出量取引制度「UK-ETS」を導入。

〇 2035年までに電力システムを脱炭素化。

② 再エネ政策

〇 再エネ:2030年までに洋上風力の総設備量を5,000万kWに引き上げ(うち500万kWは浮体式)。2020年現在の洋上風力の設備量は約1,400万kW。

〇 導入支援策として、卸市場価格との差額を差し引きする固定価格買取制度(FIT-CFD)を採用(その他5,000 kW超の低炭素電源も対象)。

〇 石炭火力:国内の石炭火力発電所を2024年10月までに全廃(CCS付きを除く)。

③ 水素・アンモニア政策

〇 CCUS:国内4カ所で大規模整備を推進。うち1カ所は2020年代半ばまでの商業運転開始を目標。

〇 水素:2025年までに100万kW、2030年までに1,000万kWの水素製造能力を確保。政府は、水素製造設備の開発や建設を支援する基金を設立。長期的に水素ビジネスを支援する補助制度の導入に向け制度設計中。水素品質を担保する認証スキームを2025年までに導入予定。

(4)電化

① 電化の進展状況

〇 運輸:新車登録に占めるEVの割合は2019年に1.6%であったが、購入補助やバッテリー価格の下落などを背景に2021年には12.5%(約19万台)に急上昇。2022年3月時点における英国内の自動車の総台数3,700万台に対しEVは約45万台(約1.2%)。2022年3月時点における英国内の公共の充電器数は約29,600基あり、このうち約5,400基が高速充電用。

〇 暖房:ガスによる暖房・給湯が主流(約8割)。

② 電化促進に向けた政策

〇 運輸:2030年以降、ガソリン・ディーゼルの新車販売を禁止(ハイブリッドは2035年以降)。EV購入補助は2022年6月に急遽終了。政府は充電インフラの整備に注力。家庭用充電器の設置費用に対し最大350ポンド(または最大75%)を補助する制度「EV chargepoint grant」を2022年4月から適用。

〇 暖房:2025年以降、新築家屋へのガスボイラー設置を禁止。2028年までに家庭用ヒートポンプの年間導入台数を現在の3万台から60万台に引き上げ。そのためヒートポンプ設置に補助金を支給。2022年度から5年間ヒートポンプの付加価値税(VAT)を0%に設定。

(5)その他

① ウクライナ侵攻の影響

〇 北海資源を持つ英国は、他の欧州諸国と比べ、ロシア産エネルギーへの依存度は高くない(2021年のガス消費におけるロシア産ガス割合は4%程度)。しかし、ガス需要の約半分は輸入に依存(主にノルウェーからパイプラインで輸入、カタールや米国からLNGを輸入)し、国際的なガス調達の価格競争に晒されている。一方、2022年夏は大陸欧州のガス不足支援のため、輸出も強化。

〇 卸電力市場ではガス火力が限界価格となることが多く、卸電力価格はガス価格に追随して高騰する傾向。

〇 ロシア産石炭と石油の輸入は2022年末までにフェーズアウト(段階的削減)、その後は可能な限り早期にLNG禁輸を実現する方針。

② エネルギー価格高騰への対応

〇 エネルギー料金高騰からの需要家保護が課題。政府は、2022年10月に各家庭から料金を400ポンド割り引く予定。この原資は、英国内の石油・ガス事業者に適用する超過利潤税から賄われる。そのほか、低所得世帯などを対象に給付金を配布。

〇 今後、エネルギー料金の上限価格が引き上げられる見通しから、さらなる需要家保護策が必要となる。

〇 政府(エネルギー省)は2022年7月、電力市場レビュー(REMA:Review of Electricity Market Arrangements)を開始。卸市場における再エネと火力発電の価格分離や地域別市場、再エネ支援制度の見直し等など、様々な案について意見公募を実施中。制度改革が行われる場合は数年に及ぶ見通し。


※ 2022年8月時点の情報。
※ 数値の一部に四捨五入等を原因とする不突合がある。
※ 供給体制図はあくまで大まかな様子を表すもので、細部まで正確ではない場合がある。
ページ先頭へ

ページトップへ