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各国の電気事業(主要国)2022年版

 
米 国
2022年8月時点
1.エネルギー供給
(2020年、石油換算100万トン)
 石 炭石 油ガ ス原子力水 力その他自給率
国内生産257.7721.5787.8214.524.7153.92,160.0106%
国内供給221.7702.2719.0214.524.7155.82,037.9
2.電力供給
(2020年、発電端)
発電電力量
(10億kWh)
構成比(%)
石 炭石 油ガ ス原子力水 力その他
4,009.81904020713
(2020年)
年負荷率熱効率送配電
損失率
CO2SO2
排出量
NOX
排出量
(%)(%)(%)原単位
(g/kWh)
総排出量
(百万トン)
(g/kWh)(g/kWh)
N/AN/A4.8361.11,473.60.250.30
 
電気料金水準
(日本=100、2020年)
停電時間
産業用家庭用
4152-
3.電気事業体制
電気事業者(utilities) 全米で3,000社以上。内訳は私営180程度(販売電力量シェア5割)、公営2,000程度、協同組合営900程度、連邦営10社。私営は伝統的に発送配電一貫体制、自由化州では発送分離が進展。地方公営・協同組合営は配電が主。連邦営は卸発電が主。
発 電 「1992年エネルギー政策法」により卸電力市場が全米大で自由化。「1996年オーダー888」により送電線を第三者へ開放。IPPなどの非電気事業者(non-utilities)の参入が増加。
送 電 発送配一貫維持の州、ISO/RTO化した州・地域(運用制御機能を移管)が混在。2022年現在7つのISO/RTOが存在(ISONE、NYISO、PJM、MISO、SPP、ERCOT、CAISO)。
配 電 私営、地方公営、協同組合営が設備所有および運用。
小売供給 規制州と小売自由化州が混在。

地域送電機関(RTO)を設置している地域の例 垂直統合体制を維持している地域の例
発 電 電気事業者(発電部門)・IPP 卸 売 相対取引 取引所取引 (運営:ISO/RTO) 送 電 系統運用:ISO/RTO 設備所有:電気事業者(送電部門) 配 電 電気事業者(配電部門) 小 売 電気事業者(小売部門)・小売事業者 需 要 家 発 電 発電部門 IPP 送 電 送電部門(所有・運用) 配 電 配電部門 小 売 小売部門 電気事業者 需 要 家
4.最近の動向と課題

(1)自由化・事業体制

〇 1990年代後半から州単位で事業再編が進み、最大24州およびワシントンDCで自由化法が成立。2000年カリフォルニア電力危機を機に見直しが行われ、自由化法の廃止や自由化の無期延期・中止を決定する州も。2022年現在、全面自由化しているのは13州とワシントンDC、7州で大口需要家を対象にした部分自由化を実施。

〇 カリフォルニア州などでは、自治体単位(郡)で既存電力会社から離脱、CCA(Community Choice Aggregator)から電力供給を受けるケースが多発(電力需要のおよそ30%)。全米10州で法制化。

〇 分散型電源、電力貯蔵、EVなどが需要家側で普及。これらを連携し、運用するプラットフォームも創出。州政府はこれらの技術が需要家にもたらす利益を最大化するため、規則整備に着手。

〇 昨今の自然災害起因の電力供給障害からレジリエンス対応も強化。EEIではESGテンプレートの中にAHR CapEx(Adaptation, Hardening and Resilience taxonomyに基づく)を指標として提示。

(2)原子力政策・開発

〇 原子炉数は世界最多の92基(約9,472万kW)、原子力発電量比率約20%(2021年)。

〇 米国内では、30年余年振りの新規計画であるジョージア州のボーグル3,4号機(サザン社、AP1000、110万kW×2基)を2012年から建設中。工事遅延と総工費の上振れを繰り返してきたが、2022年7月の発表によると3号機は2023年第1四半期、4号機は同年第4四半期に運開の予定。

〇 今後は既設大型炉に比べ固有安全性、プロジェクトリスク管理などを向上させた小型モジュール炉(SMR)および先進型原子炉への移行を指向。ニュースケール社製SMRは、原子力規制委員会が2022年7月に設計認証を発給するようスタッフに指示、2029年運転開始を目指す。先進型原子炉ではテラパワー社がナトリウム冷却高速炉(34.5万kW)をワイオミング州で、Xエナジー社が高温ガス炉(8万kW×4)をワシントン州でそれぞれ2028年頃の実証運転開始を目指す。

〇 卸電力価格の低下に伴い経済性の悪化した原子力発電所が相次ぎ閉鎖を発表。多くのプラントの早期閉鎖危機を背景に、州政府が原子力発電所の炭素ゼロの価値を見直す施策を実施(ニューヨーク州、イリノイ州など)。連邦大でも「インフラ投資・雇用法」(2021年11月成立)のもと、エネルギー省が「運転継続支援(Civil Nuclear Credit)プログラム」を創設し、経済的理由による既存原子炉の早期閉鎖回避を目的に4年間で総額60億ドル規模の財政支援を計画。

〇 92基のうち84基が60年運転可能。2回目の運転認可更新により、6基が80年運転のライセンスを取得済み(ただし一部プラントは追加対応中)、9基について原子力規制委員会の審査中。

(3)気候変動対策

① 政策目標の動向

〇 バイデン政権は、2030年までに温室効果ガスを2005年比で50~52%削減、社会全体の排出量を2050年までにネットゼロとすることを公約。電力部門は2035年までにネットゼロを目標。また、パリ協定への復帰の他、クリーンエネルギーの拡大加速、強力な気候変動政策の推進を指向。

〇 一方で、石油・天然ガスを含む化石燃料に対しては、冷遇(電力分野では、新設火力の排出基準厳格化、連邦エネルギー規制委員会による天然ガスパイプライン・レビューに係る気候変動配慮事項の制定などを指向)。これら政策による将来需要への不確実性、パンデミックを通じた、生産拡大路線から収益健全化、投資家配当志向への企業行動の変化などが、ロシアへの経済制裁に伴う国際エネルギー価格高騰と相まって、米国内でのガソリンをはじめとするエネルギー価格高騰を要因として、政権の姿勢見直しにつながる。

〇 政権が当初掲げた2兆ドル超のインフラ計画「American Jobs Plan」から一部を切り出し、「インフラ投資・雇用法」として2021年11月に成立。同法のもと、送電網近代化と拡張、原子力を含むクリーンエネルギーの維持、クリーンエネルギーの開発と実証などに財政支援を実施。一方で、より大きなクリーンエネルギー・気候変動対策措置を含むビルド・バック・ベター法案については(民主党の上院過半数で可決可能な)財政調整措置を通じて成立を試みるも、党内足並みが揃わず難航、規模を縮小してインフレ抑制法(IRA)として2022年8月に成立。再エネ、原子力、クリーン水素、CCSなどを対象にタックスクレジット(税制優遇制度)を拡大。既存の施策を含め、今後10年間で2005年比40%程度のGHG排出削減を見込む。

〇 EPAの温室効果ガス規制権限(範囲)を巡って争われたウェストバージニア州対EPA裁判では、政府機関が議会で明確に規定されていない権限に頼って「経済・政治的に重要」な規制を新たに設定する裁量(同裁判では州の発電所全体に対して、EPAが温室効果ガス排出制限を定めること)をほとんど与えないとする判決を下したことにより、今後の多方面における影響が懸念。

〇 州政府の気候変動対策は一様ではなく、積極的な州、消極的な州が混在。ニューヨーク州では石炭火力の発電電力量シェアは1%未満。一方で、カリフォルニア州、ニューヨーク州などでは、他州からの電力購入も増大。需給ひっ迫時の課題も残る。

〇 排出量取引制度を実施しているのは、北東部州12州で構成される「地域温室効果ガス・イニシアチブ(RGGI)」とカリフォルニア州。

〇 ニューヨーク州やカリフォルニア州の州知事らが「U.S. Climate Alliance」を2017年に設立。パリ協定の目標順守を目指し、2022年7月現在、23州とプエルトリコが参加。

〇 電力においては、ESG圧力などから各社が独自に低炭素化、再エネ導入計画を推進。

〇 天然ガスの価格優位性を背景に、オバマ政権下での環境規制の強化に端を発した石炭から天然ガスへの転換が一貫して継続。

② 再エネ政策

〇 2021年米国総発電電力量に占める再エネの割合は13%(水力を含むと20%)。再エネ(水力を除く)のうち、風力が70%、太陽光が23%を占める。

〇 連邦大の再エネ導入目標はなし。2022年8月に成立したインフレ抑制法(IRA)により、再エネの税制優遇(PTC/ITC)が大幅拡大。

〇 欧州に制度・インフラ面で後れをとるも、東部各州の洋上風力からの電力調達義務、洋上風力再エネ証書(OREC)などの支援制度を受けて洋上風力が進展。連邦大では2030年に30GW導入目標を掲げる(東部8州の目標合計だけで既に37GW)。

〇 再エネの導入に合わせた送電線のダイナミックレーティングの導入、グリッドスケールの定地型蓄電池の導入が進展。

〇 一方で、太陽光などの再エネ、蓄電池に欠かせないレアアースなどのサプライチェーンの懸念が浮上(中国依存)。バイデン政権として「インフラ投資・雇用法」のもと、レアアースの抽出・分離・精錬の実証施設設置に1億4,000万ドルを財政支援するほか、EV用電池製造に必要なリチウム、ニッケル、コバルトなどの鉱物資源を国防生産法の対象とし、国内生産・加工を支援するなどの取り組みを開始。

〇 太陽光の導入量が多いカリフォルニア州では、朝夕の電力需要ピークが先鋭化するダックカーブ現象が定着。特に太陽光からの発電が終了した後も、高い需要が継続する夕刻の潜在的な電力不足の解消が自然現象による影響に相まって問題化。天然ガス焚のピーカープラントの追加、定地型蓄電池の増強、デマンドレスポンスの導入など対応を進める。

〇 再エネ/クリーンエネルギー利用基準(RPS/CES)は30州とワシントンDCで導入。ニューヨーク州は2040年、カリフォルニア州は2045年にクリーンエネルギー100%を目標。

③ 水素・アンモニア政策

〇 エネルギー省(DOE)は2021年6月、10年以内に水素のコストを1kg 当たり1ドルにするとの目標を発表。

〇 インフラ投資・雇用法(IIJA)では、原子力による水素製造に特化したハブを少なくとも1つ含む、4つのクリーン水素ハブを連邦政府が指定し、合計80億ドルを支援すると規定。

〇 インフレ抑制法案(IRA)では、クリーン水素を対象としたタックスクレジット(税制優遇)を新設。クレジット額は水素製造におけるライフサイクルで発生するGHG排出量の水準によって異なるが、一定の雇用条件を満たした場合、最大で3ドル/kg。

(4)電化(EV関連)

① 電化の進展状況

〇 2021年末時点で全米のEV販売台数(累積)は230万台(カリフォルニア州が4割)、全米44.500カ所の充電ステーションに、11万台の充電器が設置。EEIは2030年末には累積販売台数は2,640万台となり、全米で1,290万台の充電器が必要と試算。

② 電化促進に向けた政策

〇 バイデン大統領は2021年8月、2030年までに新車販売(乗用車と小型トラック)の50%以上をEV(プラグインハイブリッド車と燃料電池車を含む)とする大統領令を発令。

〇 EV充電インフラの整備に向けて、EEIメンバー58社、TVAなど公営電力3社で構成するNational Electric Highway Coalitionを創設。

〇 インフレ抑制法案(IRA)では、EV購入者に対するタックスクレジットを条件付きで拡大。クレジット額は一定の国内生産要件を満たした場合、最大7,500ドル。一メーカー当たり20万台とされていた適用上限枠は撤廃。

(5)その他

① ウクライナ侵攻の影響

〇 2022年3月、ロシアへの制裁措置としてロシア産の原油、石油製品、天然ガス、石炭などの輸入を禁止する大統領令を発表(ロシアの原油と石油製品への依存度は約8%)。米国の企業や投資家によるロシアのエネルギー産業への新規投資も禁止。ウクライナ侵攻前から高インフレやエネルギー価格の上昇は社会問題化していたが、更なる悪化の要因に。2022年7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で9.1%上昇、エネルギー価格は同32.9%上昇。

〇 天然ガス価格の高騰により、一部の州を除き全国的に電気料金が上昇、消費者を直撃。2022年6月時点の電気料金水準は全需要家平均で11.89セント/kWh、前年同月比で5%増加。

② エネルギー価格高騰への対応

〇 2022年3月、石油戦略備蓄(SPR)から1億8千万バレルの放出を発表(同7月時点で1億5千万バレルを売却済み)。

〇 内務省(DOI)は2022年4月、連邦公有地における石油・ガス開発リース権販売計画を再開すると発表(バイデン大統領は就任直後、新規リースを一時停止し、DOIへリース許可の見直しを指示)。原油・天然ガスなどの国内生産の拡大を容認するも、翌5月には予定していたリース権販売を中止するなど調整が難航。

〇 低所得者向けの連邦支援制度であるLIHEAP(エネルギーコストの一時金支援制度)を強化。2022年度当初予算45億ドルから83億へ拡大(過去最高額)。


※ 2022年8月時点の情報。
※ 数値の一部に四捨五入等を原因とする不突合がある。
※ 供給体制図はあくまで大まかな様子を表すもので、細部まで正確ではない場合がある。
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