〇 バイデン政権は2050年ネットゼロ、2035年電力分野における二酸化炭素排出ゼロを掲げ、気候変動対策とパンデミックからの経済回復を両輪とする大型法案の作成に着手。2021年11月にインフラ投資・雇用法(IIJA)、2022年8月にインフレ抑制法(IRA)が成立。IRAは、過去最大規模の気候変動対策(3,690億ドル)を含み、その中心はクリーンエネルギーへのタックスクレジット(生産タックスクレジット(PTC)、投資タックスクレジット(ITC)の2種類)を軸とする財政支援法。
- 陸上風力・洋上風力・太陽光は、PTCが1.5セント/kWh(「1.5セント/kWh×発電電力量」が法人税から減免)、ITCが30%(「投資額×30%」が法人税から減免)でどちらかを選択。2025年以降は技術中立的な制度へ移行(新設原子力にもタックスクレジット提供)。
〇 所定の雇用・賃金条件、国内生産要件、エネルギーコミュニティ立地要件などを満たした場合、クレジットが引き上げられる。格差是正、雇用創出、国内産業の再生などを狙いとした仕組み。
〇 IRAにより、2030年GHG排出量は最大42%削減(既存規制下では最大35%削減)。政権の掲げる50~52%削減の目標達成には追加対策(投資拡大、イノベーションなど)が必要。
(2) 欧 州
〇 2050年ネットゼロ目標を掲げる欧州グリーンディール政策に加え、ロシアへのエネルギー依存からの脱却を目指す REPowerEU 政策(2022/5)に基づき、EUは社会・経済全般の脱炭素化とクリーンエネルギーへのシフトを加速。
〇 運輸部門や熱供給部門の電化を通じた脱炭素化と並行して、電力部門における一層の再エネ導入(太陽光、洋上風力など)を目指す動きが活発化。
〇 近年、気候変動対策で国際的リーダーシップを発揮してきたEUは、脱炭素市場における中国などとの国際競争に直面。さらに、幅広い事業支援を打ち出した米国のIRAが米国内製造への支援増額を準備したことから、域内産業の空洞化が生じることを懸念。
〇 EUは2023年2月に発表した新たな産業政策「グリーンディール産業計画」に基づき、同年3月に「ネットゼロ産業法案」を公表。再エネ電源、蓄電池、水素関連技術、CCSなど「戦略的のネットゼロ技術」プロジェクトの許可手続きの簡素化とデジタル化を推進する方針。
2. 水 素 戦 略
米国の水素戦略
〇 国家クリーン水素戦略を発表(2023年6月)
〇 国内に多数のクリーン水素ハブ構築を計画、80億ドルの資金援助。
- 水素製造は水の電気分解(再エネ・原子力)、化石燃料由来(CCS付)、バイオマス由来を併用。水素製造コストは2031年1ドル/kgを目標 。
- 需要面では、代替困難な分野(鉄鋼・化学、長期エネルギー貯蔵、大型車・航空 ・船舶など)に展開。
- IIJAはクリーン水素ハブの構築に総額80億ドルの資金提供。支援先は2023年秋頃決定。
IIJAによるクリーン水素ハブへの支援の概要 |
支 援 額 | 開発コストの最大50%(4億~12億5,000万米ドル) 計画、開発、建設、運用の4段階に分けて段階的に支援 |
プロジェクトの期間 | 規模や複雑度合いに応じて約8~12年(またはそれ以上) |
水素製造量の規模 | 少なくとも50~100トン/日(=1.8~3.7万t/年) |
その他の要件 | その他の要件 選定に当たり「原料」「最終消費」「地域」の多様性を要求。
- 化石燃料由来、再エネ由来、原子力由来のクリーン水素の生産をそれぞれ少なくとも1つは実証する。
- 水素の用途として、発電、産業、住宅・商業用暖房、運輸をそれぞれ少なくとも1つは実証する。
- 選定される各ハブは、米国の異なる地域に立地する。少なくとも2つのハブは天然ガス資源が豊富な地域とする。
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出所:クリーン水素ハブのFunding Opportunity Announcement(FOA)より当会作成 |
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IIJAによるクリーン水素ハブへの支援の概要 |
| 青 | 緑 | 桃 |
1. Appalachian Regional Clean Hydrogen Hub | ● | | |
2. California Hydrogen Hub | | ● | |
3. HALO Hydrogen Hub | ● | ● | ● |
4. Heartland Hydrogen Hub | ● | | |
5. Houston Hydrogen Hub | ● | ● | |
6. Midwestern Hydrogen Coalition | ● | ● | ● |
7. Northeastern Hydrogen Hub | | ● | ● |
8. Pacific Northwest Hydrogen Hub | | ● | |
9. Port of Corpus Christi Hydrogen Hub | | ● | |
10. Western Inter-States hydrogen hub | ● | ● | |
出所:報道資料、プレス資料より当会作成 |
欧州の水素戦略
欧州水素戦略を発表(2020/7)、各国も独自の水素戦略策定。
REPowerEU計画(2022/5)で2030年水素供給2,000万tを掲げる。
EUは欧州水素戦略で水電解装置を2030年までに4,000万kW 導入を目標化。
さらに、脱ロシアを狙うREPowerEU計画で水素供給力目標を大きく引き上げ(EU域内生産1,000万t、輸入1,000万t=計2,000万tへ)、水電解装置導入目標も9,000万kW~1億kWに拡大。
欧州各国の水素戦略策定状況(2022年10月時点) |
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欧州における2030年の水素需給想定 |
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出所:REPowerEU
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出所:EUおよび各国水素戦略 | | |
EUのグリーン水素基準
(1) 電力系統に連系された再エネ電源の認定条件
〇 追加性:再エネ電源は新設されたもの
〇 時間的相関:一定の時間単位で、再エネ設備の発電電力量が水電解装置の消費電力量に等しい、または上回ること
〇 地理的相関:再エネ設備と水電解装置が一定の地理的近接性を有すること
(2) 1kgの製造に係るバリューチェーン全体のCO2排出量を3.4kg以下とする。
主要国が提案するクリーン水素のCO2排出基準 |
| E U | 米 国 | 日 本 |
CO2排出基準 (CO2-kg/H2-kg) | 3.4 | 4.0 | 3.4 |
対 象 単 位 | Well to Wheel (バリューチェーン全体) | Well to gate (燃料調達から製造まで) | Well to gate (燃料調達から製造まで) |
出所:Commission delegation(EU) of 10.2.2023 米エネルギー省 Clean hydrogen production standard (CHPS) Guidance June 2023 水素基本戦略 令和五年6月6日 |
- 2030年の水電解装置導入目標を500万kWから1,000万kWに引き上げ。
- 水素輸送は、2027/2028年までに国内1,800km、欧州全体で約4,500kmの水素パイプラインを整備。
- 2030年までに500万kWの水素生産能力を開発。
- 洋上風力開発促進で中心的な役割を果たした差額決済契約(CfD)を水素事業でも採用。
- 2030年までに650万kWのグリーン水素生産設備を設置(70億ユーロを投資)し、600万tのCO2排出量削減を目指す。
3. CCS/CCUS
米国のCCS
〇 稼働中のCCS施設は14件、天然ガス処理・エタノール製造が大半。分離・回収したCO2の多くは原油増進回収(EOR)で利用。火力発電(石炭)は1件で現在停止中。計画中・建設中は6件程度(貯留が主)で火力発電用もあり。
〇 IIJAで5年間で121億ドルを支援(うち35億ドルは直接空気回収貯留(DAC)向け)。
〇 IRAでタックスクレジットを大幅に拡充。CCS:$50→$85、DAC:$50→$180(いずれも/CO2-t)。
建設中・計画中の主なCCUS設備 |
施 設 名 | 州 | 状態 | 運開 | 排出源 | CO2用途 |
1PointFive DAC | TX | 建設中 | 2024 | DAC | 貯 留 |
Linde hydrogen plant | TX | 建設中 | 2025 | 水素製造 | 貯 留 |
Louisiana Clean Energy Complex | LA | 建設中 | 2026 | 水素製造など | 貯 留 |
Haynesville | LA | 建設中 | 2027 | 天然ガス処理 | 貯 留 |
Cal Capture | CA | 計画中 | 2025 | 天然ガス火力発電 | 貯留/EOR |
Project Tundra | ND | 計画中 | 2026 | 石炭火力発電 | 貯留/EOR |
出所:Global CCS Institute(2023)、“Global Status of CCS 2022”、 各事業者のホームページの情報などから作成 |
欧州のCCS
〇 欧州委員会が、EU内外のステークホルダーの情報プラットフォーム「CCUSフォーラム」を立ち上げ。
〇 2023年、2020年代半ばまでにCCUS導入の支援対象産業地域(クラスター)2か所(スコットランドとイングランド東部)を導入(2030年までの操業開始)、 2030年までに4か所への拡大を目指す。
〇 2023年3月エネルギー安全保障とネットゼロの実現に向けた政策文書「Powering Up Britain」では、CCUSを活用したブルー水素製造計画やブルー水素発電の開発にも言及。
〇 2023年6月、CCUS国家戦略案を発表。開発優先地域(貯蔵容量が大きく、港湾設備のある工業地帯など)の設定、差額契約による支援、CO2輸送インフラへの政府保証など。優先地域の一つロワール地域でトタール・エナジーなど6社が総工費17億ユーロの大規模プロジェクト(年間貯留量:2030年260万t、2050年400万t) の立ち上げを発表。
〇 環境団体の反対などによりCCSに消極的だったドイツも、CCS/CCUが不可欠と方針転換、CCS技術の実用化に向け「CO2貯留法」を2023年に改正予定。特に産業界排出のCO2削減に期待。
〇 大手化学メーカーBASF傘下の石油・ガス開発会社が、2023年3月、デンマークとベルギーと共同のCCSプロジェクトの開始を発表。ドイツ南部とデンマーク・ベルギー間でCO2輸送、ドイツ南部で分離・回収、ベルギーで貯蔵する計画で、2030年には年間800万tのCO2貯留を予定。
4. 原 子 力
欧米各国の原子力推進の動向
〇 2050年までに最大25GW建設(EPR2×6基(+8基)、SMR)
〇 2050年までに最大24GW建設。仏主導の原子力アライアンス会議にEU14カ国が参加(英と伊も出席)
〇 IIJAにより、既存原子炉の早期閉鎖回避を目的に総額60億ドル規模の財政支援。IRAによる既設・新設原子力へのタックスクレジットも。州レベルでも既設炉運転延長に向けた独自の支援策のほか、州法で禁じた新設解禁、SMR推進の動きあり。
ドイツの脱原子力
〇 当初2022年末だった3基閉鎖の期限を、エネルギー需給逼迫を背景に2023年4月15日に繰延べ。
〇 足元の需給(ガス備蓄、天然ガス輸入、再エネ導入、仏原子力稼働率など)、連立政権のバランス、脱原子力経営を進めてきた事業者の意向などを勘案し、予定どおり閉鎖達成(約60年の歴史に幕)。
〇 2030年までに脱石炭を計画中。中・長期的安定供給には、再エネ導入の加速、調整電源(水素燃焼可能な天然ガス火力やバイオマス火力)の新設などが不可欠。
SMR開発
SMR開発の進捗
〇 2023年2月、米NRCがニュースケール社製「VOYGR」 (5万kW)にSMR初の設計認証を発給。
〇 同3月、GE日立が米TVA、加オンタリオ州営電力、ポーランドSGEと「BWRX300」開発協力協定を締結。
〇 同5月、ウェスチングハウスが新SMR「AP300」発表、10年以内の運開を目指す。
〇 米国務省、輸出入銀行などがインドネシア、ポーランド、ルーマニアへの輸出支援。
石炭火力跡地への立地が有望視
〇 石炭火力閉鎖が増える米国では、DOEが跡地への原子力立地(C2N)の効果を脱炭素・資産有効活用・地域経済・雇用などの面で評価。特に、規模の小さなSMRやARに適合性あり。
〇 テラパワー社は、ワイオミング州で「Natrium」実証炉、ユタ州で後続機の立地を提案。デューク社はノースカロライナ州でSMR1基の導入を提案。産炭州でC2N志向が高まる。
〇 さらにルーマニアやウクライナでもC2Nに向けた米国ベンダーとの商談が進展。
主要SMRの仕様比較表 |
開 発 メーカー |
ニュースケール社 | Xエナジー社 | テラパワー社/ GE日立 | GE日立 |
名 称 |
VOYGR-6 | Xe-100 | Natrium | BWRX-300 |
炉 型 |
PWR×6基 | 高温ガス炉×4基 | Na冷却高速炉 | BWR |
電気出力 (万kW) |
46.2 | 32 | 34.5 | 30 |
事業者 |
UAMPS | Dow Chemical | PacifiCorp | カナダOPG |
初号機 建設地 |
ID | TX | WY | 加ON |
初号機 運 開 目標年 |
2029~ | ~2030 | 2030 | 2028~29 |
燃 料 (U濃縮度) |
UO2燃料 (4.95%未満) | TRISO (3重被覆 球状)燃料 (15.5%:HALEU) | 金属燃料 (HALEU) | 標準UO2燃料 (4.95%未満) (MOXも可) |
設 計 寿 命 |
60年 | 60年 | - | 60年 |
設 備 利用率 |
95% | 95% | - | 95% |
日本企業 の参画 |
IHI、日揮、 国際協力銀行、 中部電力(予定) | - | JAEA、 三菱重工、 三菱FBRシステムズ | (日立GEは姉妹会社) |
その他 |
ルーマニアの石炭火力跡地へ29年の配備目標、ポーランド政府はKGHM社に原則決定、ブルガリアやチェコとも覚書締結 運転サイクル18カ月
| 米EnergyNorthwestとWA州で最大12基建設する共同開発契約を締結、同社コロンビア原子力発電所近傍に初号機を2030年の建設目標 ヘリウム温度750℃ 蒸気温度565℃
| 溶融塩タンクのエネルギー貯蔵システムと組み合わせて出力50万kW5.5時間継続)へ増強が可能 | 米国TVA最大4基、ポーランドSGE10基以上、カナダSaskPower最大4基、エストニアFermiEnergia1基以上で選定済、ブルガリアやスウェーデンとも覚書締結 運転サイクル12~24カ月 |
開 発 メーカー |
ホルテック社 | ウルトラ・セーフ・ ニュークリア社 (USNC) | ロールス・ロイス SMR社 | ロスアトム |
名 称 |
SMR-160 | MMR | Rolls-Royce SMR | KLT40S(浮体式) |
炉 型 |
PWR | 高温ガス・マイクロ炉 | PWR | PWR×2基 |
電気出力 (万kW) |
16 | 0.5 | 47 | 7 |
事業者 |
(Entergyと 可能性を調査) | GlobalFirstPower | 英ソルウェイ・ コミュニティ・ パワー社 | ロスエネルゴ アトム |
初号機 建設地 |
(候補:NJ) | 加ON | (候補:英 西カンブリア 地域) | 極東チュクチ 自治管区 ペベク |
初号機 運 開 目標年 |
2029~30 | 2027 | 2030 年代初頭 | 2020年 5月に 運開済み |
燃 料 (U濃縮度) |
標準UO2燃料 (4.95%未満) | 完全セラミック・ マイクロカプセル化 (FCM)燃料 (19.75%:HALEU) | 標準UO2燃料 (4.95%未満) | UO2燃料 (18.6%:HALEU) |
設 計 寿 命 |
80年 | 20年 | 60年 | 40年 |
設 備 利用率 |
95% | - | 90%以上 | - |
日本企業 の参画 |
三菱電機パワー・プロダクツ | - | - | - |
その他 |
ウクライナ原子力発電公社Energoatomと石炭火力跡地等へ最大20基導入を目指す協力協定締結。29年初号機運開が目標 | 米国、カナダ、フィンランドの各大学、ポーランドのレグニカ経済特区、ポーランドGrupaAzoty社、韓国SKecoplantのソウル本社への導入をそれぞれ協議中 | 蘭ULCエナジー、チェコ電力とスコダ、ポーランド国営企業インダストリア社とそれぞれ覚書締結 | さらに性能を向上させたRITM200S(5万kW、燃料サイクル10年、寿命60年)を2基搭載する浮体式ユニットを4つ、チュクチ自治管区バイムスカヤ銅・金鉱山向けに2027年以降、順次運開する予定 |
出所:各種報道資料より作成
5. EVと充電器
世 界
〇 2022年のEV(バッテリーEVとPHEVを含む乗用車/小型車)の世界販売台数は1,020万台(前年比約9%増、うち中国が6割)。新車販売台数の14に。22年末の世界普及台数は前年比60%増の2,600万台超。
〇 22年末時点で世界の公共充電ポイントは前年比約55%増の270万か所。高速道路沿いなどに設置される急速充電器は、22年に世界で33万台増加。
米 国
〇 急速充電器は22年末時点で2.8万台。連邦政府は、全州12万kmに及ぶ高速道路への充電器設置を支援するため、23年約9億ドルの資金を割り当て。
欧 州
〇 急速充電器は22年末で7万台超。設置数の上位国は、ドイツ1.2万台)、フランス (9,700台、ノルウェー(9,000台。EUは、欧州横断主要幹線道路での充電器設置要件を規則化。23年末までに急速充電器などの整備に15億ユーロ以上を投じる計画。
6. その他の脱炭素化に向けた施策
米国の建物脱炭素化
〇 連邦政府は、2045年までにすべての連邦政府の建築物をネットゼロにすることを目標。
〇 住宅・商業ビルのGHG排出削減は、カリフォルニアやニューヨークなど州政府や自治体が主導。
- ニューヨーク州は2023年5月、全米初となる新築建築物の化石燃料利用禁止を決定。2026年から適用開始。
- カリフォルニア州は2022年9月、2030年までに住宅・商業ビルのガス式暖房システムと給湯器の販売を停止することを盛り込んだ実行計画を承認。同州では多くの自治体がガス禁止条例を制定。
- 米国における2022年のヒートポンプ年間販売台数は430万台超、ガス式暖房システム(約390万台)を超過。
- ニューヨーク州ではIRAによるタックスクレジットや州の補助金政策によりヒートポンプの導入を推進。
ニューヨーク州におけるヒートポンプ導入支援策 |
ヒート ポンプ | 連 邦 | 州 |
寒冷地用 空気熱源 | 年間2,000ドルを上限に投資コストの30%を所得税から減免 | 住宅の一部の場合は100~400ドル、住宅全体の場合は2,000~3,000ドルを補助 |
地中熱 | 投資コストの30%を所得税から減免(上限なし) | 7,000~9,000ドルを補助、5,000ドルを上限に投資額の25%を所得税から減免 |
給湯器 | 年間2,000ドルを上限に投資コストの30%を所得税から減免 | 700~1,000ドルの補助 |
欧州のヒートポンプ
〇 「REPowerEU」計画でヒートポンプ普及率の目標値を倍増、30年:約3,000万台を域内に新設。「ネット・ゼロ産業法案」の指定技術に含め、30年までに製造能力31GW保有を目標22年約 22GW。販売台数は、22年は300万台で、前年と比べ約82万台増加。
〇 22年時点の累積設置台数は約2,000万台、欧州の住宅や商業施設の約16%に暖房を供給。
〇 ただし施工技術者不足が課題で、ヒートポンプ産業の総従業員数は現在約12万人だが、2030年までに最低50万人の専門知識を持った従業員が必要(業界団体)。
〇 ドイツでは23年8月、改正建築物エネルギー法案が下院を通過、24年以降に新設する暖房設備に65%以上の再エネ利用を義務付ける方向。基準を満たすヒートポンプや電気暖房などの普及を促進。
7. 米国の卸電力市場
卸電力価格
〇 シェールガス生産の増加に伴う天然ガス価格の低下を背景に卸電力価格も安定的に推移してきたが、バイデン政権の脱炭素政策などから、ガス生産者が経営の健全性維持のため生産を抑制し、ガス需給がタイト化、卸電力価格上昇の要因に。さらに旺盛な国内需要に加え、ウクライナ危機による輸出増などで更に高騰するも、2022年後半からはガス生産量の増加に伴い低下。
〇 近年、異常 気象による需給逼迫、電力価格の高騰が深刻化。 TX州では21年2月に大寒波襲来、 輪番停電を実施。CA州では22年9月に記録的猛暑・干ばつ・水力資源の制約などから緊急事態宣言を発令。
ネガティブプライス
〇 再エネ発電量の増加に伴い、市場でネガティブプライスの発生頻度が増加傾向。
- CAISOにおける2022年のネガティブプライスの発生率は年間時間の0.9。2021年比で36%増加。
- ネガティブプライスの価格帯は、MWhあたりゼロ~マイナス50ドルが大半。
- 風力・太陽光の供給過剰が発生する3~5月に多発。時間帯としては正午~午後5時が高頻度。
CAISO区域内のネガティブプライス発生割合
出所:CAISO 2022 Annual Report on Market Issues and Performance
加州の出力抑制対策
- 再エネ導入先進地域のカリフォルニア州で、再エネ発電の出力抑制が過去最多に。
〇 CAISOにおける風力・太陽光発電の出力抑制は特に春季に多く、2023年4月には風力・太陽光発電の30%超に相当する700GWh が出力抑制され過去最多に。
〇 CAISOでは出力抑制を低減するため、(1)蓄電池の活用、(2)DRの促進、(3)時間帯別料金の設定、 (4)既存電源の最低出力レベルの引き下げ、(5)近隣州への市場拡大、(6)地域間連携、(7)EV充放電の管理・制御、(8)応答性の高いリソースの開発を推進。
〇 CAISOは2014年、再エネの需給調整を効率的に行うため、西部地域をカバーする拡大リアルタイム市場(WEIM)を開設。2024年に拡大一日前市場(EDAM)も運用開始予定。
8. 欧州の卸電力市場
国際連系線
〇 20世紀前半から欧州諸国は国際連系線利用による電力融通を実施。電力自由化や再エネ大量導入により、国内および国際的なネットワーク・インフラ拡充の重要性が増大。
EUにおける電源構成の変化
〇 最近は洋上風力の系統連系線を国際連系線として活用する「ハイブリッド連系線」や、人工島を造成して周辺の洋上風力から一旦電気を集め、周辺の国々へ送電するエネルギー島/ハブ構想が注目。
<ハイブリッド連系線>
- バルト海でデンマークとドイツを結ぶハイブリッド連系線が2020年12月運開。3つの洋上風力発電所から両国に送電、エネルギー セキュリティ向上と電力価格抑制に貢献。
- 2010 年にEU予算から1億5,000万ユーロの補助金。
<エネルギー島構想>
- デンマーク政府はバルト海と北海で2つのエネルギー島を建設する計画。計13GWの洋上風力を設置、2023年上半期に事業実施のための入札を開始予定。
デンマーク政府のエネルギー島構想(イメージ)
卸電力市場の高価格と市場改革案
〇 ウクライナ戦争によるガス価格の更なる高騰、渇水による水力発電電力量の低下や仏原子力の発電量の低下などによって電力価格が一段と高騰。欧州委員会は同年5月に短期的な市場介入(規制料金再導入、上限価格設定など)に関する政策文書を発表。
〇 2023年3月の電力市場改革案で、電力売買契約 (PPA)や差額決済契約(CfD)などによる長期契約の拡大、DRや電力貯蔵の役割強化など、過度な価格変動からの需要家保護を提案(※12月、EU理事会と欧州議会が暫定合意)。
ネガティブプライス
〇 再エネ大量導入により、オランダ、ドイツ、フランス、北欧などの卸電力市場でネガティブプライスが発生。ドイツでは、2023年7月2日の市場取引価格が過去最低の▲500ユーロ/MWhを記録。
〇 再エネ事業者は、出力抑制やNP発生の時間帯が増加し、事業見通しの悪化、新規投資への悪影響を懸念。送配電網の建設に係る許認可手続きの加速、柔軟性電源の積極的な導入、NP発生時に安定した報酬を与える経済的枠組みの確保などを要求。
ネガティブプライスの発生時間
※日本は卸価格0円の時間
出所: IEA Electricity Market Report Update Outlook for 2023 and 2024